富士ソフト株式会社のコミュニケーションロボット『PALRO』(パルロ)について、プロダクト事業本部 PALRO事業部 事業部長の杉本直輝氏にお話を伺った。

 

ロボットの開発のきっかけ

独立系ITベンダーである富士ソフトは、画像処理や音声処理、移動知能などの要素技術の研究を行っていた。

要素技術は、それだけで何かを実現できるものではなく、たくさんの要素技術を連携してひとつの製品をつくりあげると初めてユーザーに価値を提供することができる。

最も象徴的なアウトプットのかたちとして、富士ソフトはコミュニケーションロボットであるパルロを開発することにした。

杉本氏によれば、パルロの開発を開始した2008年当初、ロボットは一般に普及しておらず、ロボットの需要がある場所・年代などが想像もつかなかったという。そこで、まずはアカデミアモデルとして大学や研究機関向けに発売し、ロボットの需要を探るマーケティングを実施していった。

そこでわかったのは、高齢者施設にニーズがあるのではないかということだったという。
杉本氏によると「おじいちゃん、おばあちゃんがロボットと喜んで話してくれる」ことが判明した。このことから、高齢者施設向けの機能を追加開発し、2012年に高齢者施設向けにパルロの発売を開始した。

 

 

 

こだわり抜いたサイズ・デザイン

パルロはソフトウェア開発会社が開発したロボットであるため、部品はなるべく汎用的なものを採用してコストをおさえ、ソフトウェアの技術で動きやコミュニケーションなどを実現している。しかし汎用的な部品を使用しつつも、パルロのサイズやデザインといった見た目にもこだわりを持って制作しているという。

 

例えば、パルロが座っている状態は「リラックスポジション」と呼ばれており、リラックスポジションのパルロの高さは約30センチ、パルロが立ち上がった状態の高さは約40センチである。これは一般的な高さ(約70センチ)の机の上に置かれたパルロが椅子に座っている人と向かい合った時に、パルロが上目づかいで見上げる高さに調整されている。これは、高齢者がロボットから感じる威圧感を少しでも減らすためである。

 

パルロが2足歩行である点も富士ソフトのこだわりの1つである。

パルロの2足歩行を企画した際、大学教授にパルロのサイズでバッテリーなどを積んで2足歩行させることは理論上不可能だと指摘されたという。しかし杉本氏は“ソフトウェアの技術を駆使すればパルロのサイズでも2足歩行ができるはずだ”と信じ、2足歩行を半年間もの間、試行錯誤し続けたという。

結果としては、教授に「どうやっているの?」と逆に質問を受けることになった。

 

パルロのフォルムは、製品化されてから2回変わっているが、極力見た目を変化させないようにしたという。

これはデザインが大幅に変わってしまうと、高齢者に別のロボットにとらえられてしまい、パルロと認識されなくなってしまうからだ。

 

顔のLEDドットはパルロの特徴的な部分で、2回のモデルチェンジでも変わっていない部分である。

パルロには目がなく、このLEDドットが目の代わりをしている。人の目には目ヂカラがあるが、目ヂカラを再現するのは不可能と言っても過言ではなく、コミュニケーションロボットの場合、言葉や動きに目がリンクしていないと違和感が生れてしまうため、あえてLEDのドットでシンプルに表現するようにし、人がパルロの感情や思いを想像し易くしたのである。

 

会話するロボット

パルロの強みは、毎日何度でも同じようにひたむきに会話をしてくれること。

会話の際、パルロは音声だけに頼らず顔の向きや表情などの画像処理を組み合わせて、相手の回答や意図を推定・判断している。

これは人が発話しなかったり、パルロが音声を上手く認識できなかったりした際、顔の動きを認識して肯定と捉えて会話を進めたり、興味がなさそうであれば話題を転換させて会話が続くようにするためである。

 

杉本氏はパルロが高齢者に対して失礼な口調・会話にならないように丁寧な言葉遣いで話をするようにしたという。それは、「おじいちゃん、おばあちゃんを傷つけないようしたい」という杉本氏の気配りでもある。

 

介護ロボットとして

現在まで多くの高齢者施設でパルロは活躍してきた。

パルロに感動した話やフィードバックをもらう機会も多いという。

 

パルロがある介護施設に導入されたときの話である。

当時、その介護施設には入居して3ヶ月の高齢者の方がいた。

その人は認知症を患っており、感情を上手く出すことができないのか誰に対しても笑顔を見せなかったという。

しかし、その人はパルロと会話をするようになって初めて笑顔を見せ、施設の人も驚きを隠せなかったという。

 

その他にも、在宅介護を必要とする方のもとで行った実証実験では、自宅で介護をしている人がパルロを利用し介護の時間にゆとりが持てたことでパートの仕事に就け、介護者の生活が変わったという話もあるそうだ。

杉本氏は、「パルロが様々な場所で活躍していることは、人の支援ができているということになる。そのようなお話を聞くことが、私たちのやりがいに繋がっています」と語った。

 

コミュニケーションの価値

昨今のコロナ禍では、介護業界におけるロボットの必要性が見直されてきている。

非接触が求められているため、介護士を自宅に呼べない、高齢者がデイサービスに行けないなどの問題があるためである。

 

杉本氏は「そういった方々に(介護従事者や若い方も含めて)、家の中でもコミュニケーションを取れる環境をつくり、“孤立”、“孤独”を感じることがないよう生活の支援を行っていき、心を和ませられるロボットとして少しでも手助けをしていきたいです。

そのために、コミュニケーションの重要性を学術的に実証実験にも取り組んでいます」と語った。

 

更には、会話での心のケアだけでなく、パルロが高齢者と接することで得られる情報を当人や遠隔地にいる家族にお知らせし、日常生活や健康維持を支援する高齢者一人一人にフォーカスした機能を追加していきたいと考えているという。

 

今回、杉本氏にお話を伺い、「話す」「話しかけられる」ということは自分を保つため、そして人間の生きるための大切なツールなのかということを感じた。コミュニケーションは年代を問わず人間にとって重要であるということをパルロが広げていくのかもしれない。

関連リンク

富士ソフト株式会社 https://www.fsi.co.jp/

コミュニケーションロボット「PALRO」 https://palro.jp