2020年より小学校においてプログラミング教育が必修になったことで、ロボットを使った玩具やプログラミング玩具が一層注目を浴びている。
今回、ロボットメディアではロボットを使った新しいあそびのプラットフォーム”toio(トイオ)”およびソフトウェア、コンテンツの企画、開発、販売を行っている株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントtoio事業推進室 課長/toio開発者の田中章愛(たなか あきちか)氏に取材を行った。
1.toioとは?
toioは触って遊べるロボットトイのプラットフォーム。2台のロボット「toio™コア キューブ」に自分の好きなキャラクターを載せて、様々な遊び方を楽しむことができる。コアキューブの見た目は単なるキューブのようだが、中にはロボットが動く・ロボットで遊ぶための技術がつまっている。
toioの遊び方は多種多様であるが、基本的な動作としては①ユーザーがコントローラーを使って動かす②toioが遊びに応じて自動で動く③コアキューブがコアキューブを追従するなどである。プログラミング教材としての用途もあり、パソコンを用いずカードを使ってプログラミングをゲーム感覚で楽しむことから、パソコン上でJavaScriptやUnityを用いて行う本格的なプログラミングまで可能。
今回インタビューを行った田中氏とアンドレ・アレクシー氏(コンセプト・UXデザイン)が2012年より開発に着手。後に中山 哲法氏(企画・開発・設計)が加わり、ソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program」による支援を受けて事業化。2018年よりソニー・インタラクティブエンタテインメントに移って現体制となり2019年に発売された。
2.田中氏にインタビュー
toio創業メンバーの1人、toio開発者の田中章愛(たなか あきちか)氏に取材を行った。
―toioのこだわりポイントを教えてください
田中氏「たくさんありますが、ポイントはコアキューブの裏面にある光学式のセンサーです。実は、toioであそぶときに敷くマットには細かな模様があり、センサーが模様を読み取ることで、コアキューブが自身の位置を把握しています。これにより、相手と自分の位置関係でルールをつくり、相手がこうだから自分はこう動くとか相手が勝った負けたということが分かるんです。例えば、toioでは相撲のような二人対戦ができます。必殺技ボタンがあり技を発動すると自分は操作しなくても相手を追尾して張り手をかましてくれるなど、相手の位置を使うという事を自然にあそびの中に取り入れています。また、土俵から出た際の判定もシビアに行えます。
“プラスα”というところもこだわっています。コアキューブには紙工作とかレゴ®ブロックとか自分の好きなものを載せられて、ただの四角いロボットからいろんなキャラクターに変身できます。紙とかブロックだとご家庭にあるものでプラスαの一工夫ができて、自分だけのロボットに変えることができるので、toioとの絆を深めてあそんでもらいたいなと思っています」
―お子様向けの部分が大きいかと思いますが、お子様からはどのような反応や意見をいただいていますか?
田中氏「開発の途中途中でお子様に使用していただいていたので、細かい意見はたくさんいただいています。そのような意見や実際に使用している様子から得た気づきをtoioのソフトウェアはもちろん、デザインにも反映させています。例えばコントローラーのサイズ感や形状です。toioのコントローラーは片手で握れるサイズの輪っかの形状になっています。
これは当初両手型のコントローラーを採用して実際にお子さんにあそんでもらい観察した際、コントローラーで両手がふさがって段々周りのものやtoioを触らなくなって離れてあそんでしまうことが分かったからです。
そのため、コントローラーは片手で操作できるかたちにし、もう一方の手でキューブをもったりおもちゃを持ったり自由にtoioと触れ合えるようにしました。これはtoioのコンセプトなんです。このようにご意見も大事ですが一緒にあそんだりする中から見えてくるものを大事にしています。
開発の最初の方は技術的に上手くいかず、失敗の連続でした。しかし、ちょうど開発を始めたくらいに僕もほかのメンバーも子どもが生まれたりして、”自分たちの子どもにも触ってもらいたい”っていう気持ちが強くあり、それを原動力に諦めずに上手くいかない日々を乗り越えてきました。開発の途中途中で欲しいといってくれる方々がいたり、クリスマスプレゼントにしたいと言ってくれる方がいたりしたことに感動して、”いろんな人に届けたいな”という気持ちで今もやっています。まだまだ改善したいところはたくさんあるので、どんどん進化していきたいなと思っています」
―玩具としてだけでなく、プログラミング教材としても人気が高いですね
田中氏「はい、ありがたいことにたくさんの学校から授業で使いたいと言っていただけています。最初は先生方や親御さんが触ってみて、”これは面白い””自分もわかりやすい”と仰っていただいたところから学校や自治体に繋がることがあり、本当にありがたい話だなと思っています。私としては、toioは一般のお客様に楽しんでもらいたいとピュアな気持ちで提供したため、学校や大規模な取り組みに繋がることは予想を超えていました。
もともと、あそびを中心としながらも自分で作りたくなったらちゃんと作れるように、プログラミングのツールも用意しています。“実世界でロボットを動かしてあそぶ”という体験自体がまだまだ新しいものだと思うので、そのためのツールとして用意していました。お子様向けにはカード式のパソコンもいらないカートリッジでプログラミングを学べる機能や、ビジュアルプログラミングというブロックで簡単にプログラミングできるという機能など複数の段階を用意して、プログラミングやパソコンを触ったことがない人でも取り組めるようにしています。
僕自身、学生時代のロボットコンテストや趣味の工作・卒業研究などでロボットを作っているときにプログラミングしていました。動かすものがロボットのように目の前にあると、その周りにどういう問題がある、何をクリアしなきゃいけない、何が難しいかなどを身近な存在として感じられるなと思っています。パソコンの中でだけで完結するプログラムも大事ですが、現実世界で動くロボットのプログラミングも今後重要性が増すと考えています。そして実際にプログラミングする際はロボットの目線や気持ちになると課題を理解しやすいなという実体験があったので、そういうところをみんなで議論しながら取り入れています。
実際に触っていただくとロボットが動くと感動してくれたり楽しんでくれたりするのを感じています」
―大人のエンジニアも楽しめるんですよね
田中氏「はい、toioは自分も含めて大人のエンジニア目線でみても使いたくなるデバイスになったらいいなと思っているので、JavaScriptで組めたり、本格的なロボット研究にも応用できるような環境を用意しています。Unityというゲームエンジンに先日対応し、今ちょうどコンテストとかやってるんですけど非常にレベルの高い作品でARとか人工知能を組み合わせたりとかゲームを作ったりとか、そういう大人も楽しんでいただけるような状況になっています。
子どもも大人もしっかり楽しめたり、toioの中身に自発的に触りたくなった時にも環境を用意するというところは、どこまでやっていいのかわからないのでお客様の意見を聞きながらニーズにマッチしたものを提供しています。このように常に進化している事がtoioの特徴かなと思っています」
―開発のきっかけはなんだったのでしょうか
田中氏「2012年ごろの当時ソニー本社の研究所に勤務していたのですが、近くにあったソニーコンピューターサイエンス研究所(以降ソニーCSL)*に通って放課後に友人たちと勉強会を開催していました。仲間と集まりいろんなプロトタイプを試作してみたり、商品化できたら楽しいなって思うものを勝手に作ったりしていたのですが、その頃に出会ったソニーCSLの研究員でゲームやインタラクションを研究していたアレクシーと、お互いの共通の趣味のレゴブロックが動いたら楽しいな、当時僕が専門だったロボットとアレクシーが専門だったゲームとかインタラクションを融合できたら面白そうと盛り上がり、まだ世にない楽しいものを作りたいピュアな想いから一緒に開発をスタートしました」
*コンピュータサイエンスの研究を行うソニーグループの研究所。1988年(昭和63年)に設立された。
―開発で一番苦労したところはなんですか
田中氏「最初はやりたいことに対して技術が追い付かなかったので、技術をつくるところが苦労しました。実際お客様に届けるために量産・製品化するところも、あらゆる使い方を考えてご家庭で使っていただけるサイズ感、価格、使いやすさにチューニングしてきたというところも苦労しました。単に”ロボットです”と販売するつもりは全くなくて、ロボットで相撲などやりたいあそびがあったので、そこを実現したかったんです。
もともと僕自身が学生時代のロボットコンテストでの経験から、自分が作ったものでコンテストに出たり、対戦する熱さとか楽しさだったりを知っていて、そこは実現したいと思っていました。
最初のプロトタイプは天井にカメラをつけてそのカメラでロボットを認識するため、部屋全体を改造しなくてはいけないくらい大規模でした。このプロトタイプでユーザーテストを行った際、多くのお子様に「これほしい」「いつ売り出すの」と言っていただけました。それまでは趣味みたいな楽しいプロジェクトとして行っていましたが、ちゃんと届けたいという気持ちが芽生えました。しかし、あそびのためにご家庭で部屋を改造してもらう、というのはありえないので、どうにかシステムをコンパクトにしなければなりませんでした。部屋のサイズから机のサイズというように紆余曲折を経ながら4年くらいかけて小さくし、最終的には現在のコアキューブにセンサーやモーターなど全てを内蔵した、専用のマットがあればあそべる状態までできました。
そして様々なゲームプロデューサーさんやクリエーターさんと一緒にゲームやあそびを作ることができました。もともと“こうあそんでもらいたい”“実世界で自分が作った物とかがゲームになったら楽しい”という体験ありきで作っていたので、ゲーム的にもしっかり作るというところに苦労がありつつやってよかったと思うところです」
―今後の展望を教えてください
田中氏「皆さんのアイデアや楽しさを広めていくツールになっていければと思います。そのためにもタイトルやあそびは提供していく予定ですし、プログラミングの機能やツールを含めてあそび方の紹介も増やしていきたいです。そしてtoioでできるようなロボットや自分の作ったものが動くという体験が当たり前になってほしいですし、コンピューターとのかかわりが変わっていったらいいなと思います。ロボットが身近にあって、あそび相手にもなり道具にもなる世の中はもう目の前に来ていると思います。ロボットと親しみ、プログラミングも自然に使えることでできることがより増えたり、相手に簡単に自分のアイデアや考えが説明できるようになったりすればいいですね。ロボットを使ったあそびをきっかけに新しいアイデアがどんどん生まれたら嬉しいです」