VEXロボティクスは、子供にSTEM(科学・技術・工学・数学)への興味を早い時期から持たせ、理数工学に対する苦手意識を覚える前に好奇心から刺激し、次世代を担っていくリーダーを育成する教育プログラムだ。
昨シーズンは、56カ国でこのようなイベント1,923回登録され開催された。
競技には、小学4年生から中学2年生を対象にした【VEX IQ チャレンジ】、小学6年生から高校3年生を対象にした【VEXロボティクスコンペティション】、大学生を対象にした【VEX U】がある。

ジャパンカップ開催内容:

3月23日(土)プレイベント @世田谷ものづくり学校
3月24日(日)VEX IQ チャレンジ @8/COURT 渋谷ヒカリエ

ジャパンカップ開催概要:

 VEXロボティクスの競技大会は、毎年4月末に行われる世界大会に向けて、各地域でリーグや予選大会が繰り広げられている。今回3月上旬に世界大会出場が決定していることもあり、本競技大会に限っては、同世代のチームとの国際交流の場を設けることが大きな目的となった。
 3月23日のプレイベントでは、ハワイから参加のチームとの国際交流としてロボットのワークショップを開催、ランチには桜の開花を楽しみ、午後は大人も加わって書道を習った。桜の開花は実際には急に寒気が流れ込み間に合わなかったが、世田谷ものづくり学校主催の【桜祭り】に参加ができた。
 3月24日は、ヒカリエ館内を行き来する一般の通行人の前で、国際交流戦を行い、世界大会出場チームのモチベーションを高めさせることだった。また世界大会に出場しないチームにおいても、経験値を高めさせ、これから国内のVEXロボティクスをリードしていく大役が課せられた。

競技内容と競技テーマ:
 毎年5月1日に世界同時で新しい競技テーマが発表さる。そして今シーズンの競技テーマは【NEXT LEVEL】だ。ハブと呼ばれる17個のゲームエレメントを、競技フィールドの端に設置された枠内に運んだり、あるいはハブを積み上げることでポイントを獲得する。また終了時には、ロボットを中央に設置された棒にブラ下がることで、ポイントを獲得できる。
競技は、122センチx244センチの専用競技用フィールで行われる。競技内容は、大きく分けてチームワークチャレンジとロボットスキルスチャレンジがあり、チームワークチャレンジは、試合当日トーナメントマネージャーによって、参加する他のチームの中から協力し合うアライアンスがランダムに選ばれ、共同作業で高得点を競う。ロボットスキルスチャレンジは、チーム別にロボットの性能と操作の実力を競う。操作内容は、リモコン操作によるドライビングスキルチャレンジと自律ロボットを使用するプログラミングスキルチャレンジの2つに分かれている。各3競技種目とも制限時間60秒間で高得点獲得を目指し、1日に何度も繰り返し行う。
世界大会出場には、上記の競技の勝敗の他に、エンジニアリングノートブックの審査による最優秀賞か優秀賞のいずれかを獲得する必要がある。今回はすでに世界大会出場者が決まっているため、最優秀賞と優秀賞は与えられなかった。

国内初VEXシグネチャーカップを開催して:
 開催日の二日前、世界大会出場予定の親御さんから連絡があった。自分の子供のチームが23日のプレイベントに参加できないという内容だった。23日のプレイベントは、ロボットを世界の競技大会基準のロボットに改造するためのワークショップが開催内容に含まれていた。ハワイ州チャンピオンとハワイ代表世界大会出場チームが訪れ、自ら自分たちの技術を日本チームに共有する予定が組まれていた。【大人は子供たちのロボット製作に介入できない】、それがVEXロボティクスの世界における共通認識だ。子供達が毎年更新される競技テーマに向けてロ

ボットを製作するには、子供達が自らロボットをデザインし、試合を繰り返し、ロボットを強化していくしか方法がない。大人は大会に向けてスケジュールを組むこともできない。あくまでも子供が主体となり、VEXを製作できる場所や機会を提供し、子供がわからないことがあればリソースの在り処に導くだけだ。唯一、短時間で子供達が自分たちのロボットを強化するには、強豪チームのロボットを真似するしか方法がない。しかし日本にはまだ世界ランキング上位に入る強豪チームはいない。今回のワークショップは、ハワイの強豪チームが自ら日本のレベルを底上げるために一役買うことを目的に来日し、自分たちのロボットの作り方やプログラミングを教えてくれる機会だった。
 そして喜ばしくない報告は、インストラクターからも受けた。そのチームの相方が24日の競技大会(VEX IQ チャレンジ)に出場できなくなったという報告だった。VEX IQの競技大会は、2人以上のチームで出場することが義務付けられている。VEXの競技大会は、まだまだ国内では新しい。ルールや開催目的が、インストラクターや親御さんに伝わりきれていなくて当然だが、残念だ。

 しかし、この残念な気持ちは、主催者のエゴにすぎなかったと、すぐに自覚することになる。23日プレイベント当日、最初に会話をしたハワイアンチームの同伴者に早速事情を説明してみた。「明日24日にチームメートが足りない日本チームが参戦する」と伝えた。「誰か代わりにそのチームの相方をお願いできないか?」と伝えようとしたが、その前に「そのチームに協力できる子がいるから心配しないで」と答えが返ってきた。全く問題視しせず、その毅然とした対応は凛々しかった。期待通り、その相方がいない日本チームが、世界大会前に英語だけ話す相手をパートナーにすることができた。これで世界大会出場の練習になる。世界大会に出場する選手は、1日に6回アライアンス(同盟チーム)を組むことになる。共通語は英語とプログラミングのC言語だ。世界中の小学生と中学生が、自分の意思を伝えるために英語で会話をする。可能な限り真のグローバル人材育成に貢献するのが、VEXロボティクスを日本で浸透させる目的の一つだ。

 24日、チームと親御さんにハワイアンチームの同伴者を紹介した。繋げることが目的なので、後の段取りは経験値が高いハワイアンチームに任せた。試合が始まり、ハワイアンの子供とタグを組む日本人のチームの姿があった。親御さんに「上手くいってそうですね」と伝えると「全然英語がわからなくて何を言っているか理解できないんですよ」と心配そうに言われた。しかし現実はというと、子供たちは協力をしてすでに競技に参戦している。「お母さん、大丈夫ですよ。子供は自分たちが想像する以上にコミュニケーションを取っています。きっと上手くいきます」と伝えると、少し安心したように笑顔が戻ってきた。その親御さんには、世界大会出場が決まった際に「世界中の子供たちは、あらゆる手段でコミュニケーションを取ろうとします。是非世界大会では、お母さんは後ろからお子様が一歩前に進めるように背中を押してあげてください」ということを伝えていた。今回のジャパンカップで、その疑似体験をしてもらえた。チームも親御さんもこうして経験値が上がっていく。何があっても世界大会ではいい経験をしてくるだろう。

 話はかなりそれてしまったが、世田谷ものづくり学校で開催した23日のプレイベントでは、想像以上の刺激的な化学反応が起きた。もともとハワイチームは、1チーム4人から8人の大所帯で来ると説明を受けていた。みんな狭いハワイから来るのだから、どのチームも知り合いだと思っていたが、実はハワイで各チームに声をかけてくれたVEXのメンター以外は、どのチームも交流があるわけではないらしい。強豪チームが来日して、彼らが日本チームのロボットを一緒に強化するため、ワークショップを午前中に開催する予定だった。蓋を開けると既存の国内チームの参加より、VEX IQ初参加の子供の数が圧倒的に多くなった。一応、インストラクターも準備していたが、初参加者のテーブルを用意するなり、着席した日本人の子供の横や後ろには、会場に到着したばかりのハワイアンの子供たちが付き、ロボットの組み立て方を教え始めた。テーブルが足りなくなって、もう一つのテーブルも用意された。もちろん開始の挨拶もなしに。そしてもちろん当日の説明もなしに。そんな形式張った儀式が邪魔に思えた。中には【クローボット】といってVEX IQで最初に製作する競技用ロボットの組立書をハワイで印刷してきたチームもいた。さすが完成には3時間を要するため、主催者で用意した【スピードビルド】という2輪のロボットの組立書を手渡した。

会話をしているかどうかまでは近寄って観察はしていないが、子供たちの手には組み上がっていくパーツがしっかりとあり、目的に向かってロボットを作っているようだった。【スピードビルド】ができてしまうと、今度は競技用フィールドの上で動作確認をし、何やら相談をし合ってさらに機能的なロボットを作り始めている。ハワイチームは、きっとこのワークショップのことを親に告げられてきているに違いないが、それ以上に国際交流を楽しみに来ている姿が印象的だった。ここで一緒にロボット作りをした国内から参加した子供たちも、きっと掛買いのない経験をしたに違いない。主催者が用意するのは、場所と機会だけでいい。ここにもVEXロボティクスの真髄がしっかりと反映されていた。

今後の展開:
 まだまだVEXロボティクスは国内で初まったばかりだ。他のロボット競技会やロボットメーカーと同じことをしていたら、いつまでたってもVEXロボティクスの魅力は伝えられない。VEXにはVEXの良いところがたくさんある。世界で認められて、すでに120万人ユーザーがいるロボットだ。そして今回も5年後、10年後を見据えて、国内を代表する企業がリクルーティング目的で見学をしに訪れていた。
優秀な技術者を育成するのが目的じゃない。次世代を担う優秀な人材を育成するのがVEXロボティクスの目的だ。
今回のジャパンカップは強豪ハワイアンチームの協力も得て、大成功に終わった。大会主催者として、もっともっとこのようなイベントを繰り広げていく予定だ。

社会との取組:
 最後に、今回ジャパンカップをご支援してくださった各スポンサー企業様に感謝の意を表したい。東京急行電鉄株式会社は、【何か楽しいことを起こせる街】づくりに力を注がれており、VEXロボティクスの活動に共感していただきご支援をいただいた。また今回窓口としてご担当いただいた同社都市創造本部では、IT企業が多く集う渋谷の街を【ビットバレー(bitter valley = 渋い谷)】と呼び、情報量の最小単位【bit】と上手く掛け合わせ、クリエティブ・コンテンツ産業の街として都市開発に注力している。しかし都会にしては起伏が激しく、また幹線道路が中心部を遮断しており、街づくりにおいて多くの課題があるそうだ。東京急行電鉄株式会社は、そういった課題を常に解決してきており、正にVEXロボティクスが【次世代を担うリーダーの育成=課題解決者の育成】するプログラムに賛同していただきご支援をいただいた。

 ローランド ディー.ジー.株式会社は、世界中の音楽業界では知らない人はいない日本を代表するメーカーだ。実は3Dプリンターや切削機も開発・販売もしており、ものづくりメーカーとしても多く知られている。ローランド ディー.ジー.株式会社にも【次世代を担うリーダーの育成】に賛同いただき、これからVEXロボティクスとコラボレーションをすることで、国内の【課題解決者の育成】に力を注がれていく予定だ。
 最後にイベント協賛だけではなく、年間を通じた活動にご支援くださっている株式会社ロボット科学教育Crefusと株式会社パワープロジェクトには、このようなイベントを開催できることを可能にしてくれ、次世代を見据えた教育を広げていくことにご支援をいただいている。

《国内競技大会協賛企業》

東京急行電鉄株式会社
ローランド ディー.ジー.株式会社
株式会社ロボット科学教育Crefus
株式会社パワープロジェクト

《国内競技大会運営パートナー》

REC Foundation
株式会社QuestWorks
三英株式会社
株式会社カムサイド
谷中テックアカデミー

《イベント開催協力》

IID 世田谷ものづくり学校
一般社団法人STEM教育協会
世田谷ハツメイカー研究所