手術用ロボットといえば、米国インテュイティブサージカル社が開発した手術用ロボット「ダ・ヴィンチ」が有名だ。
日本国内では、200台を超える「ダ・ヴィンチ」が各病院で運用されている。
手術用ロボットは人間の手では不可能なほど精密な手術を実現し、低浸襲性があり出血量を最小限に抑え、切開創が小さいため患部の痛みも軽減される。
アメリカの全慄然全摘手術では約8割の手術に、手術用ロボットを使うほどだ。
特許満了が近い
2019年である今、手術用ロボット「ダ・ヴィンチ」の中心的な特許の多くが満了に近づいている。
それに合わせて、日本国内含め競合他社の巻き返しが期待されている。
そんな中、経済産業省が、手術用ロボットに関する国際基準を発行した。
低侵襲の外科手術への要求が高まる中、微細な作業や制限された視野という問題を解決するため、多くの国で手術ロボットの開発が進められています。
今般、日本の提案により、手術ロボットの安全性に関する国際標準が発行されました。これにより、日本の先端医療技術の国際市場への導入促進が期待されます。
1.背景
ロボット手術は、微細な操作や、人間の手では不可能な操作を可能とします。がんの早期摘出、精密な整形外科手術などを可能にする技術として、精密機械工学、情報工学(IT)、光学、素材工学の垣根を越えた開発の取組が日本でも行われてきました。
世界各国で手術ロボットが利用されるためには、各国の法規に基づいた安全性の審査が必要ですが、安全性に関する国際基準は、その審査基準の前提となりうるものです。
2.規格発行までの経緯と本規格の概要
手術ロボットの安全性に関する規格には、産業用ロボットのように機械的な安全性を必要とする面と、医療側から見た医療機器安全の面の両面が重要なことから、両者の専門家が集まるISO(国際標準化機構)とIEC(国際電気標準会議)の合同ワーキンググループが日本を含む7カ国により提案、設置されました。
その後、手術ロボットの安全性に関する規格の議論を2015年7月より開始。日本からは産業技術総合研究所のメンバーらが継続的に議論に参画し、中国、ドイツ、韓国、英国、米国などの専門家との調整を行ってきた結果、2019年7月9日に国際標準が発行しました。
今回、発行される国際標準(IEC 80601-2-77:2019 Medical electrical equipment — Part 2-77: Particular requirements for the basic safety and essential performance of robotically assisted surgical equipment)の主なポイントは、以下の通りです。
IEC 60601-1 (邦文規格: JIS T0601-1 医用電気機器 – 第1部:基礎安全及び基本性能に関する一般要求事項)に対する個別安全規格として、手術ロボットの特徴を踏まえた要求事項の追加あるいは緩和。
内視鏡手術用ロボット、整形外科用ロボットに限らず、幅広い用途の「手術ロボット」に適用可能。
脱着可能な手術器具部分に関する要求事項、例えば脱着部の強度試験。
生活支援ロボット安全規格ISO 13482などで導入された「保護停止」を採用。
ロボットに適した支持機構の強度試験の代替試験法を例示し、安全率要求を緩和。
電気手術器(電気メス)からの電磁妨害に対する耐性の試験方法を例示。
なお、5と6の試験方法は我が国で実施している方法、医療機器開発ガイドラインで提案している方法を元に日本が提案し、採用されました。
3.期待される効果
米国はじめ多くの国・地域で本規格を自国の基準としてとりこむ意向が示されております。これにより、革新的な技術に基づく日本の医療機器が他国でスムーズに評価、承認されることが期待されます。今後、本規格に則って設計・生産された日本の医療機器が、安全・安心な機器として世界の医療現場へ普及し、医療機器産業の競争力強化につながることが期待されます。
経済産業省は、今後も、日本発の先端医療技術を世界に届けやすくするため、国際標準を始めとしたルール形成の活動を支援していきます。 なお、手術ロボットに加え、手術後のリハビリなどを支援する機能回復ロボットの安全性に関する国際標準IEC80601-2-78も同日付で発行されています。
※今回発行された国際標準は、経済産業省の委託事業である戦略的国際標準化加速事業(手術ロボットに関する国際標準化)の成果の一部によるものです。
手術用ロボット戦国時代へ
特許切れから、日本国内でも手術用ロボットの発表や開発の加速が考えられるが、シェアの高い「ダ・ヴィンチ」に並ぶ日が来るのかはわからない。
日本ならではの高い技術を使った手術用ロボットが開発されることを期待したい。
サムネイル画像引用:(https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190716003/20190716003.html)