製品の詳しい仕様や開発の裏側を知るため、開発メンバーの方々に話を伺った。
3DCG映像の新しい楽しみ方
3DCG映像と聞くと、特別なメガネやヘッドセットを使用することをイメージするだろう。
そんなイメージを覆した製品が、この空間再現ディスプレイだ。
その名の通り、作り出したCGコンテンツをディスプレイの上に表現することができ、それを裸眼で見ることができる。
まずは、実際に操作している様子をご覧いただきたい。
このように従来の3Dとは全く違う、新しい形での3DCG映像を見ることができる。
ではどのようにして”空間”を”再現”しているのか紹介していこう。
空間再現ディスプレイについて
製品名 | 空間再現ディスプレイ |
型名 | ELF-SR1 |
製造会社 | ソニー株式会社 |
外形寸法(幅×高さ×奥行)[アクセサリー含む]:mm | 383x232x231[383x232x247] |
画面サイズ | 15.6 |
質量[アクセサリー含む]:kg | 4.6[4.9] |
製品URL | https://www.sony.jp/spatial-reality-display/ |
従来の3D映像では1枚のパネル内で複数視点分の映像を分割して表示していた。
しかし、映像を分割していることで解像感は落ちてしまい、明るさやコントラストも不足するので少し暗くてぼやっとした映像になってしまっていた。
だが今回の空間再現ディスプレイでは見ているユーザーの位置を特定し、それにあわせて映像を表示する。そのため見られる人は一人に限定されるが、きわめて高精細で自然な立体映像のため目が疲れにくく、画面酔いもしづらい。
クロストーク(映像が二重に見えたりズレて見えたりすること)も起こりづらく、画質やクオリティは明らかに高いものになっている。
それを可能にしたのが、このソニー独自の3つの技術である。
高速ビジョンセンサー
従来の3D映像では左右方向の視差しか再現できなかったが、本製品はディスプレイ上部に搭載されたカメラの高速ビジョンセンサーと視線認識技術により、見る人の目の位置を的確にとらえることができる。
そのため、正面・左右・奥行方向すべてに対して適切な視点位置を把握することができるのだ。
リアルタイムレンダリングアルゴリズム
高速ビジョンセンサーで把握した視点位置をもとに、ディスプレイパネルから出す光源映像をリアルタイムで作り続けることができ、最終的に4K60Pで描写している。
それにより、どの方向から見ても変わらないクオリティでコンテンツが表示されるのだ。
マイクロオプティカルレンズ
ユーザーの視点位置をとらえ生成した映像を高いクオリティで映し出しているのが、このマイクロオプティカルレンズだ。
肉眼では確認できないほど微細なレンズをかまぼこ状に超高精度にパネルへ配置することで、右目用の映像は右目、左目用の映像は左目に届くので裸眼でも立体映像を楽しむことができるようになっている。
ちなみに本製品はソニーストアの銀座・札幌・名古屋・大阪・福岡天神の各店舗にて体験が可能だ。(12月22日現在)
実際に見て体験することで文章だけでは感じ取れなかった凄さがわかる製品となっているため、直接足を運ぶことをお勧めする。
”新しい”を生み出すまで
空間再現ディスプレイ ELF-SR1の製品化は、従来のテレビやディスプレイとは違った体験をユーザーに届けたいという思いから始まった。
従来の裸眼3Dディスプレイは、3DCG映像として見えない人や真正面から見なければひずんで見えてしまうという欠点があった。
技術の進化によりパネルの解像度が上がり、VRで使用するHDM(ヘッドマウントディスプレイ)の登場があったことで、「裸眼でもクリアな3DCG映像が見られるようにならないか」と考え始めたのだ。
また、社内の様々な研究の中で、顔のパーツを検出する技術や高速ビジョンセンサー、超解像度パネルが開発されていたことで、プロジェクト化が現実的なものになってきたそうだ。
UnityやUNREAL ENGINE4が普及してきたことや、ディスプレイが形になったこと、そして抱いていた「インタラクティブコンテンツを新しい顔として市場を作っていきたい」という想いが加わりプロジェクト化に至ることができた。
だが、製品化するにはやはり相当な苦労があったそうだ。
開発していくうちにまず課題となったのがクロストークだった。
製品の説明の際にも出てきたが、映像が二重に見えたりズレて見えたり、色がにじんで見えてしまうことを指す言葉である。
それを最小限に抑えるために様々な試作を行ったり、ソフトの中身をかなり細かく精査して映像が目に届くまでのタイムラグをなくすためのチューニングを行った。
他にも、パネルの表面が光ったりシマシマに見えることで立体再現の没入感を損ねないよう、高精度にマイクロオプティカルレンズを貼るための生産技術を確立させ、工場で量産・出荷できるようにしたのもかなり苦労した点だったという。
不具合があった場合、改善要因を調べるためにはハードウェアやPCのソフトウェア、専用SDKやパネルと解析する箇所は山のようにある。
それらをすべて確認する必要が出てくるからだ。
また今年に限るが、新型コロナウイルスの流行にも悩まされた。
流行し始めの2020年春頃は本製品のトライアルイベントを行う予定だったのだが、世界的なロックダウンの影響もありスケジュールの変更を余儀なくされてしまったのだ。
試作を複数回に分けて行ったり、事業所が状況に応じて対応してくれたおかげで進めることができたが、苦労したそうだ。
他にも、ソフトウェアの場合はリモートで開発を進めるための開発環境を整えたり、ハードウェアの場合は測定器を持って帰ることができないので日程を調整して密にならないよう工夫して出社したりと対応に追われたそうだ。
ビジョン
現在はコンテンツ制作者をターゲットとした製品になっているが、いずれは店舗やイベント会場などでのディスプレイとしても広く使われるようにしていきたい。
そのためにも、コンテンツが増えることは重要だ。
本製品の専用SDKは無償で提供されており、それを使えば誰でもこのディスプレイで立体空間が再現できるコンテンツを制作することができる。
また、そうして作ったコンテンツをネットでやり取りすることも容易な時代だ。
ユーザーと一緒に、空間再現という新しい市場を作っていけるよう、今後も研究と開発を進めていきたいとのこと。
そうして一般的な製品にしていくことで空間再現コンテンツを気軽に楽しむことができ、それによって新しいコンテンツの見せ方が増えてこの業界が盛り上がっていくことを期待しているそうだ。
企業概要
会社名:ソニー株式会社
所在地:東京都港区港南1-7-1
URL:https://www.sony.co.jp/